読書人間の電子書斎

〜今まで読んだ本を記録して自分だけの図書室を作るブログ〜

【西向く犬】「少年と犬」馳星周

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東日本大震災から5年間彼は走り続けた

 直木賞受賞作でもあるこの作品、なんとなく手にとって読んでみたけど、こんなにも泣くことになるとは思いもよらなかった

 

例によって語彙力はないけど、この本を読み終えた興奮を忘れないうちに書いていこうと思う

 

★あらすじ

全6章からなる作品で、東日本大震災の爪痕から始まる

 

認知症の母を助けるため泥棒に手を貸す男、国の家族に金を持って帰るために犯罪に手を染める泥棒、お互いを想っているはずなのにすれ違ってしまう夫婦、ある事情を抱えて生きている娼婦、膵臓癌で余命少ない猟師…

 

そんな人々の前にシェパードと和犬の雑種のような見た目をした犬、多聞が現れる

 

多聞はいつも人々の孤独感を包み込み、その行いを否定も肯定もせずただ見守っているのだ

そして、彼らの行く末を見届けたあと西に向かって去っていく

 

多聞はボロボロになりながらも岩手から西へ走り続けた、強い意志を瞳に湛えながら…

 

5年たち最後に多聞が出会ったのは東日本大震災から逃れ熊本に移り住んだ3人の家族の元だった

 

そこで、多聞が西に向かって走り続けた理由が明らかになる

<p

 

★感想

 読者である私も物語の登場人物となり多聞と旅をしているような気持ちで読んでいたのでこの旅の終りを見届けるのが怖かった

それでも、最後の家族との出会いで多聞の目的を知り犬が持つ底知れない愛情と一途さに驚いた、この作品は本当に読んで良かったと思う。

 

多聞と出会う人々はみんな、一匹の犬である多聞に全幅の信頼を寄せる

多聞は彼らの過ちや歪んでしまった人生を非難したりもせず、かといって肯定をするわけでもない

自らの生き様を持って人々に生きる指針を与えている

 

自らの目的のためどんなに傷ついても西へ向かう、そんな多聞の強い意志に突き動かされ人々は自身を正すことになるのだ

 

登場人物たちの人生は本当に様々で、そのどれもがハッピーエンドというわけではない、残酷な運命が容赦なく待ち受けているし、理不尽な死に見舞われる者もいる

 

それでも、地べたを這いつくばってでも生きる

どんなに辛く茨の道であっても今を生きているのだから何が待っていようともがむしゃらに「前に進むしかない」

それが、人々が多聞に教えてもらった事なんだと感じた

 

多聞もまた、数奇な運命を辿った犬だと思う

ただ一人の少年に会うために5年間も彼は走り続け、様々な人に救いを与え、本当に大切な人を守ってこの世を去った

 

多聞はたった一匹の平凡な犬だけど、読者は知っている

彼の勇気と、無償の愛情を。

 

 

イキった感じの締めくくり方をしたけど

次からは通常運転で「夏の怖い本祭り2021」をマイペースに連続投稿していくので、よろしくお願いします!

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