【癒やしと儚さの融合】「子どもたちの長い放課後」仁木悦子
古典ミステリー好きな方なら知ってるやも…
仁木悦子さんは胸椎カリエスで闘病中に「猫は知っていた」という作品を書き上げデビューし、和製クリスティとも言わしめた日本の女性ミステリー作家
ユーモアで軽快な文体に、がっつりした話の構成、綿密な伏線で謎解き小説としてかなり上質な作品をたくさん残しています
…で、この前、私が読んだのはこれ
私は 仁木兄妹が活躍する「猫は知っていた」「林の中の家」は読了済みなのだけども、こちらは子どもが探偵として活躍する7編の短編集となっている
★お気に入りの話4話のあらすじとザックリ感想
「うす紫の午後」
可愛くない事がコンプレックスの6年生の千加はお隣に住んでいる美人の香夜子さんが殺害されていた事を知る
香夜子を殺害した容疑者として香夜子の姉の小夜子が逮捕されてしまうが、千加は小夜子が犯人ではない事を知っている
なぜなら事件の日、千加は小夜子がデパートでブラウスを万引きしている所を目撃していたからだ
そしてなにより犯人は…
●感想
この話は、千加という女の子が小夜子お姉さんの容疑を晴らすために捜査に乗り出す話だけど、真相が二転三転して凄まじい
小夜子と千加がデパートにいた理由が明らかになって話が全て繋がり、この物語に隠された真犯人が明らかになるのだけども、ここは仁木悦子の真価が発揮されていると感じて鳥肌が立った
絶対に読んでほしい
「誘拐者たち」
高校生の浩介とシンは同級生のオートバイを壊してしまい、弁償代の工面に四苦八苦する
そこで、お金持ちのおばあさんの大切にしている猫を誘拐して身代金を要求する計画を立てるが、おばあさんは猫がいなくなった事で自殺をしてしまう
しかし、それにしては不自然だ、独自に浩介は捜査に乗り出す
●感想
最初こそ「バイトして自分で稼げや、ワルガキ共め」と思いながら読んでいたけど、浩介が猫を誘拐して一時的に家で飼う所からなごみ系の話に変わる
…と思いきや、おばあさんが自殺をする
でもその自殺って実は…と、話がジェットコースター級にギュンギュンと展開しまくる
ミステリーと猫が好きな人なら、何重にもハラハラして過剰にエネルギーを消費する話
「倉の中の実験」
フーコは友達のユリのおじいちゃんが大好きだった
本好きでたくさんの知識を教えてくれたおじいちゃんだったが、ある事件を境に倉の中で亡くなってしまった
そして、その倉はユリの兄の篤夫の遊び場になるのだが…
●感想
本好きのおじいちゃんが、ユリのお母さんに部屋を奪われ倉の中に追いやられ、いじめられまくるというひたすら胸糞悪い話だった
結末が唯一の救いかなあと思ったけど、なんかなあ…
あんなにおじいちゃんを慕ってたくせに、倉の中に遊びに行かなくなったフーコにも同情できなかったし…
この話の登場人物は、本好きのおじいちゃん以外感情移入できない
でも現実にもこんな家庭はある、昔からなんだな…
「やさしい少女たち」
ある日、教師の山井は受け持っているクラスの女子に「顔色が悪い」と言われた
その後も病気ではないかと何人もの生徒に指摘されるので
元来、心配性の山井は思い詰めて病院に行ってみるが「異常はない」と言われる
それでも信じられず疑心暗鬼になる山井は少女の「ある一言」で命を絶つ
●感想
「ざまあ」としか言いようがない
少女たちがとある人物のために山井に復讐する話なんだけど、少女たちの親切で優しい復讐があまりにも計算高くて怖い
こんな復讐の方法もあるんだなあ…という感心と共に、仁木悦子って明るく優しいイメージがあるのに、こんな発想ができるんだと恐ろしくなった
★まとめ
数々の作品を残す著者の「子どももの」の短編集
ユーモラスだけど読後感は哀しくダークで重い、なのに静謐な感じがするのはなんでだろう
つくづく、仁木悦子という作家は掴みどころがなく不思議だと感じた一冊だった。