【化物よりもたちが悪いやつ】「ぼぎわんが、来る」澤村伊智
この前読み終わったばかりの作品「ぼぎわんが、来る」
ちょいと、不思議なホラー小説体験をさせてもらった
こちら映画化もされている
例によって原作を先に読まないと映画を観ないという謎のこだわりを持っている私はまだ未視聴ですが、現在アマプラで配信中なので近々観てみようと思っています
小説の方はシリーズ物みたいでこの「ぼぎわんが、来る」は一作目にあたるそうです
★あらすじ
小学6年の秀樹が認知症の祖父との留守中に、奇妙な来訪者が現れた
そいつはドアの外で「ギンジさんはいますか」と何度も繰り返す、祖父の名前だ
祖父は認知症で会話もままならないにも関わらず、その場へ駆けつけ物凄い剣幕ででそいつに向かって「帰れ」と怒鳴った
そいつが去ったあと、秀樹はその来訪者について祖父に聞くが「今はあかん」と教えてくれなかった
その後、大人になった秀樹は成長して香奈と結婚して娘の知沙が生まれた
SNSでイクメンのオフ会をしたり、イクメンブログを書いたりと順風満帆な日々を送っていた矢先、秀樹のまわりで奇妙な出来事が起こり始める
秀樹の部下の高梨が不審な死を遂げた、しかも腕に謎の噛み跡をつけたまま死んだのだ
秀樹はなぜか子供の頃の「奇妙な来訪者」の存在が頭をよぎった
「こんなのは気のせいだ」と振り払うが、その予感は的中する
「奇妙な来訪者」は香奈と知沙に目をつけはじめ、秀樹の家庭を徐々に侵食し始める
秀樹は藁にもすがる思いで、フリライターの野崎を通して霊媒師の比嘉真琴に助けを求める
★長めの感想
ざっと語らせてもらうとこの本は全3章からなっていて、奇妙な来訪者は「ぼぎわん」という化物
歴史的な史実に基づいて化物の正体に迫っていき、秀樹が家族を守るため様々な霊能者をあたりぼぎわんを払おうとするが、ぼぎわんのチートすぎる能力に追い詰められる第一章は、スリルと恐怖満点で面白かった
…が、第二章は香奈目線の話になり、ここでイクメンパパの秀樹の闇が明らかになる
一見すると良きイクメンパパだが、全ての育児の責任を香奈に押し付け失敗すると罵倒するが、自分のせいで知沙が怪我しても無視を決め込み責任逃れするというヤバ夫だと言う事が分かり胸糞悪くなる
作者さんのモラハラ夫の描き方が生々しいので、第一章の秀樹の「家族を守る強いお父さん」というイメージがガタガタに崩れる
第三章では霊媒師の真琴の姉の琴子が登場して、ぼぎわんが秀樹をつけ狙う事になった真相が明らかになり、その原因となった田舎独特のいわゆる…なんというか男尊女卑家庭?家父長制?の陰惨さを嫌というほど読まされる(こんな家庭あるのか?)
そして、ぼぎわんとの戦いが始まる…ここから手に汗握るアクションが展開される
結末は「これだけでは終わらないぞ」という感じの嫌な予感がする幕引きで非常に私好みだった
※
うーん、ホラー読んでるって感じしなかった…夫婦の不妊問題と差別がテーマなんじゃないか?この作品
というのも、話の中盤あたりで真琴は不妊症で、野崎は無精子症だという事が明らかになる
子供好きゆえに苦しむ真琴、同年代の男性が幸せそうに自分の子供の事を語る事にどうしようもない苛立ちを覚え子供嫌いになってしまった野崎
(しかしそんな自分が1番嫌いなのだ)
不妊問題の葛藤が長いページをさいて描かれている
第二章では、香奈が知沙を授かる前に秀樹の気持ちを確かめるため「もし私に子供ができなかったらどうする?」と質問をする場面がある
でも、秀樹は「香奈の不妊治療を手伝うよ」と自らに問題はないと言いたげな返答をする
子供ができない家庭では妻側に問題があるとされ責められる事が多く、夫側に問題があっても男性側のプライドを守るため「ない」ことにされるらしい
秀樹はその悪習を継いでそうだ
不妊というどうしようもない問題で自らを責め続け、それでも向き合う真琴や野崎と対比するように「都合の悪い事は香奈のせいでいい」という秀樹の幼稚で自分本位な考え、それを容認する秀樹の親族…
あー!もう!こんなの嫌だ、胃が痛くなるわ…
心霊ホラー、家庭の闇、ガチガチのアクション、ぼぎわんの目的に迫る謎解き要素…色んなジャンルをぶっこんで読者を翻弄する
感想書くのに困る謎のホラー作品だった