【侘しさを感じる】「女のいない男たち」村上春樹【長めの感想】
ついこの前読み終わった村上春樹の「女のいない男たち」6話からなる短編集です
↓私が読んだのは単行本
村上春樹の短編集は比較的読みやすいけど、やはり私の中途半端な読解力では大した解釈はできないので、あらすじと読んでる時に感じた想いをさくっと記録しておこうと思う
「ドライブ・マイ・カー」
女優の妻に先立たれた孤独な舞台俳優「家福」が専属の運転手の女の子に自らの胸中を語る話
家福の妻は子供を流産してから何度も不倫を重ねていた、その後、癌になり亡くなってしまうのだが、不倫した妻の気持ちを理解したいがために家福は妻の不倫相手と友人関係になる、そこで家福が導き出した答えは…
★感想
妻の不倫相手の男と友人関係になるのがなかなか理解しがたい…が、そこら辺が村上春樹の作風だと思うのであえてツッコミは入れずに…
家福の奥さんは亡くなった子供の喪失感を埋めるために、不倫をしていたのだろうか…どうやら本気の不倫でもなかったみたいだし
家福ともう一度やり直す、子供を新たに作るという事も苦痛だったのかもしれない(また失うかもしれないしね…)
いずれにしろ最後まで家福には奥さんの気持ちが分からなかった
でも胸中を語る家福の葛藤と、奥さんの思いを運転手の女の子が心の奥深くで理解してる感じが良かった
ちなみに「ドライブ・マイ・カー」は今年の8月に映画化しています
「イエスタデイ」
ビートルズの「イエスタデイ」を関西弁に翻訳して歌う関東人の木樽と、木樽の彼女のえりかと、主人公「僕」をめぐる話
木樽は彼女のえりかを、主人公に「俺の代わりにお前がえりかと付き合ってみいひんか」と持ちかけられる
渋る主人公だったがあまりの木樽の押しの強さに負け三人で会うことになる
★感想
木樽の気持ちがわかる^^;
木樽は浪人生でえりかは優秀な大学生
ちゃらんぽらんで不器用な自分と付き合い続けるよりも、きちんとした主人公に自分の彼女を任せたいという気持ちだな…たぶん
しかし、えりかはそんな木樽を曲がりなりにも愛していた、どこまでもすれ違う二人の気持ちが歯がゆかった
でも破天荒な木樽が自分の道を突き進んだと思える数年後のエピソードが良い、すっきりした読後感だった
「独立器官」
美容外科医の渡会は、女性と体だけの軽い付き合いしかしたことがなかったのだが、たまたま出会った既婚者の女性に本気の恋をしてしまう
懊悩する渡会だったが、やがて餓死というもっとも辛い自殺を選んでしまうという話
★感想
極端なんだよ、渡会…今までまともに人を好きになったことがないから、いざ本当に好きな相手に出会ってしまうと必要以上にのめり込んでしまう
あれだ、遊んでこなかった真面目な人が歳を取った時に下手にギャンブルなどの遊びを覚えてハマってしまう現象と一緒だ
ただ、けして手に入らない相手を本気で好きになってしまった
これまで手に入らないものなどなかった渡会には、死を選ぶ方が楽だと思えるほどに辛い事だったんだなと感じた
でも、私には渡会は自己中なエゴイストにしか思えなかった…
「シェエラザード」
主人公の「僕」と体だけの関係である彼女はいつも先一夜物語のシェエラザードのように不思議で面白い話を聞かせてくれる
そんな彼女が、高校生時代に好きだった男子の事について語ってくれた
それは、彼の家に忍び込み一つずつ物を盗むというぶっ飛んだ経験談だった
★感想
いやー…村上春樹の発想、ぶっ飛んでんなあとしか言えない作品
思春期特有の抑制できない恋心が歪んだ形で表れていて面白い話だった
ある出来事が起きて彼女は彼の家に忍び込む事はできなくなるわけだけど、それをきっかけに彼の事は頭から離れていく
なんか純情だった乙女から、割り切れる大人の女性になっていく段階が描かれているような気がして、なぜか切なくなった
「木野」
伯母の店をもらい、バーを経営する事になった木野だったが、ある日カタギではない客と諍いが起きる
ピンチの木野だったが、カミタという強面の客に救われる
その後、木野はある女性と関係を持つのだが、カミタから「しばらく身を隠せ」と忠告を受ける
木野は危険な目に会いながらも数奇な運命を辿る
★感想
うーん、これは解釈が難しい
話の随所に変な蛇が現れたり、通い猫が消えたりと伏線が貼られてるんだけど、カミタがそれだったとか?守り神的ななにかか…?
ちょっと分からなかった、すみません
「女のいない男たち」
表題作。真夜中に電話のベルが鳴る…主人公の「僕」がその電話を取ってみると数十年も前に付き合っていた彼女エムの夫だった
エムの夫は彼女が自殺した事を僕に告げる
僕はエムがなぜ自殺をしたのか、そしてエムの夫はなぜ僕に連絡してきたのかという、疑問と共にエムとの出会いを振り返る
★感想
この話が一番好き
淡々とした語り口調だし、エムとのエピソードにはユーモアさえ感じるんだけどエムを亡くした虚無感が伝わってくる
何十年もたって「僕」も他の女性と結婚し、エムを忘れた気持ちでいたけどエムの好きな音楽や、愛された記憶が「僕」の心に蘇る
短い付き合いだとしても「僕」の人格の一部はエムによって多少なりとも形成されているのだと感じる
人との出会いって完全に切れたと思っても、付き合っていた時の気持ちや想い、癖は心の隅っこに残るもんなんだなと感じた話だった
●まとめ
この作品はタイトルの通り「女のいない男たち」がテーマ
様々な形だけど女性と出会い、奇妙な理由で別れたり去られたりした男性たちの微妙かつ複雑な寂しさがよく描かれている
今まで読んだ村上春樹作品の中でも、苦味のある作品だった