【自業自得がまねく悲劇】「ラストファミリー」森村誠一
結構前に読んで、記録し忘れていた本、森村誠一の「ラストファミリー」
これは、三篇からなる短編集となっていて少し異色です
ちょっとジャンル分けに困る作品だなあと思ったのですが、さらっとあらすじと感想を書いていきます
「ラストファミリー」
表題作
娘と息子を亡くし死を待つ身となった老婆のこうの前に中村という泥棒の青年が家に侵入してきた
ふしぎと中村に恐怖を覚えなかったこうは自分の過去をとつとつと中村に話し始めた
というのも、こうの夫は不審死を遂げており、娘と息子は結婚していたがその夫と嫁に追い詰められ亡くなっている
こうが死ねばその財産は娘と息子の夫や嫁に入ってしまう
絶対に譲りたくない…憎しみを全面に出すこうに中村が復讐を提案する
★感想
これはスカッとするリベンジものなのか…?と思ったけど、最後の最後で裏切られた
こうの夫と娘と息子を死に追いやった奴らにじわじわ仕返しする様は「ざまぁ」という感じで読めたし、こうはひとり残されたかわいそうなおばあさんみたいなイメージだったのに、ラスト3ページで因果は巡るもんなんだなと思い知らされるような反吐が出そうな結末が待っている、後味が絶妙に悪い
でもこの感じが森村誠一ワールドと言えるので私は好きだ
「異次元の夜」
こちらは全10話のSFショートショート
体が小さくなっていく彼氏、夢の中での恋愛、同じ日を繰り返すループもの、過去の自分が大量発生する…などなど
恐怖というよりも「おお、そう来るのか」というような面白い発想が詰まった話ばかりでかなり読み応えがあったし、森村誠一さんってこういう作風も書くんだなあと新しい発見ができた
ダークな世界観に優しさを加えたようなショートショート
ちなみに、この作品は森村誠一のデビュー前に「百日草」という美容誌で連載されていたらしい
「無責任の恐怖」
とにかくついてない男、保坂
彼は眼前で泥棒に自転車を盗られてしまう
しかし、逃げようとした自転車泥棒は飛び出してきた車に接触して倒れてしまう
そのごたごたのあと、保坂は新宿のマンションで殺人事件が起きていたというニュースを目にするのだが、なんと被害者は自転車泥棒に接触した車に乗っていた女なのだ
保坂の運命は…
★感想
いや、この話は怖すぎる
殺人事件の謎解明から自転車泥棒接触事故に繋がっていく…とぎれとぎれの時系列が線になっていく感じがすっきりするコンパクトなミステリーとなっているんだけど、ラストは格別と言っていいくらい救われない気分になる
保坂は事件解決に一躍かって警察に感謝状までもらうけど、めでたしめでたしで終わらない
彼は「とにかくついてない男」
人の運というのは生まれついてのものなのだ、良い事があっても後で払わなければいけない…というミステリーの皮を被った残酷な恐怖小説だった
★まとめ
森村誠一作品はいくつか読んで感想を書いたけど、こちらの短編集は今までの作品とは一味違う作風となっている
「異次元の夜」は新しい森村誠一の世界観を堪能できるし「ラストファミリー」「無責任の恐怖」は読みやすいイヤミスみたいな仕上がりになっているのでページ数は少ないけど満足感があった