すさまじい心理描写「見知らぬ乗客」パトリシア・ハイスミス
うーん、これはミステリー…というより
殺人を犯したものの心理描写を
深くえぐって描いている小説じゃないかなあ。
ちょっと、主な登場人物と人物関係を整理します。
ガイ・ヘインズ 建築家。妻のミリアムとの離婚調停でもめている。
アンという女性と付き合っている。
チャールズ・ブルーノ 金持ちのボンボン。仕事を持たずに遊び歩いている。父親を憎んでいる。
ミリアム ガイの妻。オーウェンという男と浮気をして妊娠。
しかし、オーウェンが結婚をするつもりがないのでガイと
別れたくない。
サミュエル・ブルーノ チャールズの父親。印象がうすい。
☆あらすじ
ガイとチャールズ(以下、ブルーノ)は列車の中で出会う。
互いに話を弾ませていくうちに
ガイはブルーノから「交換殺人」を持ちかけられる。
「ぼくはあなたの奥さんを殺し、あなたはぼくの父親を殺す。
ほら、ぼくたちはこの列車で知り合ったわけだから
知り合いだって誰にも知られてない!完璧なアリバイだ!」
確かにその方法だと動機から足がついて捕まることはないが
ガイはその話を「おかしなやつのたわごと」と一蹴する。
そして、二人は別れるが…
数ヵ月後、ミリアムが死体となって発見される。
ブルーノが勝手に殺人を実行したのだ。
それからガイはブルーノからの執拗な強迫に悩まされるようになり
とうとうブルーノの父親を殺すはめに…。
☆感想
殺人の罪を犯した人間の罪悪感からのギリギリの精神状態や
警察に追い詰められるのでは…という恐怖が
かなりの長さにわたって描かれているので、ミステリーというよりサスペンス。
殺人を犯したあとの二人の精神の奇妙な高揚と低下が印象的で
確かに殺人なんてするとここまで不安定になるだろうなあという
迫真のリアリティーを感じてこの作者の筆力に驚いた。
そして、ラストはブルーノが意外な行動をとり
まるで、本当に罪をさばくのはだれなのかと問うような結末。
にしても、ブルーノは手がかりを残しまくってるし
殺人を犯したあともガイと接触してわざわざ怪しまれるような接点を作ってる。
最初は自分の憎んでいる人間を始末できたことで
ブルーノは万能感を感じていたけど
上記にも書いたように
だんだん、罪悪感や恐怖で蝕まれていく精神の安定をはかるために
「殺人を犯した」という仲間意識のあるがあるガイに依存してたのかもなあ…。
自分を責めさいなんだりかと思うと、開き直ったり
感情がジェットコースターみたいに
コロコロと変わる表現が見事でこの作者はこれからもマークしていきたい。
ちなみに、これヒッチコック監督が映画化しているようです。
この作風だと確かにヒッチコックあうかも。今度、観てみよう。