読書人間の電子書斎

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増幅していく嘘「少女地獄」夢野久作

ドグラ・マグラ」「いなかの、じけん」以来の夢野久作

少女地獄 (角川文庫)

少女地獄 (角川文庫)

  • 作者:夢野 久作
  • 発売日: 1976/11/29
  • メディア: 文庫
 

 ↑私は夢野久作けっこう好きでコレクションしたいので文庫(米倉斉加年のカバーイラストのもの)で読んだのですが

Kindle青空文庫などで無料で読めるので下に貼っときます。

少女地獄

少女地獄

 

 面白いですよ。

 

★あらすじと感想

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「少女地獄」は3部構成になっており

 

1部・何でもない

姫草ユリ子というひとりの少女が杵臼病院に看護師としてやとわれる

杵臼医院長もその家族も魅力的な彼女に最初は好意を持って接していたが、彼女の小さな嘘がほころびを見せてきて、杵臼家族を巻き込みやがて彼女は自殺をしてしまう。

自殺をするまでのユリ子の心理描写が怖い話。

 

2部・殺人リレー

友人を死に追いやった男に復讐を企てる女が主人公の話

まず、女はその男と知り合い付き合うことになる、女は付き合ううちにその男に惹かれていくが、当初の目的を遂行するのをやめなかった。

ドライブをしている時に故意に事故を起こして殺し、警察にもうまく嘘をついて復讐は上手くいく。

だが、女はその後で男の子供を妊娠していることを知る。

罪悪感に苛まれる主人公の女の感情や心の移り変わりを描くのが上手いと思った作品。

 

3部・火星の女

県立女学校で黒焦げに焼けた少女の死体が見つかり、その謎を暴くのだが、学校に原因があることがわかり警察や新聞社に追い込まれた学校長と女教師が自殺をする。

 

やがて、少女の遺書がある人物の手を介して送られてくる。

その遺書には黒焦げ少女が学校長やまわりの教師、生徒にいかに追い詰められ自殺するまでに至ったかが刻々としたためられていた。

 

この話は少女が自殺をする前に、自分を傷つけた教師たちに一世一代の復讐を果たすまでが描かれているけど、正直な話、救いがない上に胸糞悪かった。

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こんな感じで「嘘」と「少女」をテーマにした話となっている。

 

そりゃあ生きてたら些細な嘘くらいつくだろーとか思いながら読んでたんだけど、その一見しょうもない嘘がとんでもないことになる可能性もあるという事を描きたい作品なのかなあ。

 

でも世の中、バカ正直に生きてたら損をすることもある。現に私が嘘付くやつに裏切られてきたので、私も真面目に生きていくという考えはとっくに捨てた。

だから、この作品を読んでも正直にまっすぐ生きていこうとは思えない。

 

そのせいか「火星の女」はまわりが悪いせいで嘘をつかざる負えなかったわけだから、かわいそうだけど

「何でもない」のユリ子と「殺人リレー」の女は、自分自身が目的を果たすためについた嘘なんだからもう少しうまくやれよ、できないなら計画性のない嘘をつくなよとしか思えなかった。

 

私の性格が悪いのだろうか…でも、現代って「少女地獄」の時代と違ってもう誠実なだけでは渡っていけないと世の中だと思うから嘘は怖いみたいな作品を読んでも「うん…」としか言えない。

 

★他のお話

Kindleの方は分からないけど、文庫は「少女地獄」のほかに3篇の短編が収録されている。

 

「童貞」

おそらく結核の余命の少ない青年が美しい女性と出会う、その女性はとある事情で警察に追われている身だったが、青年はその女性のことが忘れられずその後を追う。

 

結末が畜生すぎる凄い作品だった。

 

「けむりを吐かぬ煙突」

新聞社に務める主人公は金持ちの人間の内幕を暴いて売りつけて金にしていた。その日もとある未亡人の不審な行動を暴くために家に訪れた。

未亡人は主人公を存外、あっさりともてなして自身の恐るべき秘密を語りだす。

 

とにかく、イカれたやつしか出てこないのでこの本の中でも地味にぶっ飛んだ話だと思う。結末は気持ち悪い。

 

「女杭主」

国に不満を持つ青年たちが戦争に一役買うために女杭主である眉香子にダイナマイトを手配してほしいと頼む。

眉香子は快く引き受けるが、青年たちにその前に乾杯しましょうと誘う。

やがて、青年たちは眉香子の、思惑にはまってゆく。

 

これはなぜか眉香子の強かさだし、腹をくくって生きてる印象を受けてあっぱれと思ってしまった。

 

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かなり、長い感想になったけど「少女地獄」

夢野久作独特のネットリ感をとくと味わうことができる素晴らしき作品だった。

ドグラ・マグラより読みやすいです。

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