読書人間の電子書斎

〜今まで読んだ本を記録して自分だけの図書室を作るブログ〜

【わかり味が深すぎる】「推し、燃ゆ」宇佐見りん

私が初めて読んだ宇佐見作品は「かか」

ellery0y.hatenablog.com

それに続いて読んだ「推し、燃ゆ」

こちらは第164回芥川龍之介賞を受賞し、2021年本屋大賞9位にもなっています

やはり私はこの作者さんの表現力が好きだ

 

私は文学作品には疎いので毎度のことながら簡素な記録になると思うけど、つらつら書いていこうと思います

 

★あらすじ

ある病気(おそらく発達障害?)を持っていて自らの身体が負担になっている

そのうえ、徹底的に人間社会にも向いていない主人公あかり

 

そんなあかりが唯一生きがいを感じるのは子供の頃にテレビで観たアイドルグループ?まざま座に所属する「真幸」を推す事だった、不器用でも這いつくばるように人生を生きる事ができているのはこの推しのおかげだった

推しのためにバイトへ行き、ブログを書き、SNSで仲間と繋がる…推しはあかりの生命維持装置そのものだった

 

…が、そんな推しが女性を殴り炎上してしまう、そして脱退、浮上する女性関係…推しと共にあかりの生活も最悪な方向へと変化が起きていく

 

活力となっていた推しを失い非情な現実に取り残されたあかりが生きる道は…

 

 

★感想

推し「真幸」の衰退と共にあかりも高校中退、バイトをクビになり、嫌気が差した家族に追い出され孤立していく…まるで真幸とあかりがリンクしているようで、読んでいて辛い

あかりが真綿でじわじわ首を絞められるように追い込まれていく様には思わず「うわー、作者さんここまで追い込むかよ…鬼畜か」と呟いてしまったほど

 

あかりが真幸のように爆発して自宅で綿棒ケースを投げて暴れるラストはすっきりするようなしないような謎のモヤモヤが残る

我に返ったあかりは落ちて散らばった綿棒を一つ一つ拾うんだけど、なんだかそれが情けなくて…でも、綿棒を一つ一つ拾い続ける姿を想像するとまるでその不器用さが生きづらい人の人生のような気もした

 

一つ一つ拾っていった先に何があるのか分からないけど気力のない身体を引きずり虚しさを抱えて生きるしかないと諭されるような世知辛い作品だった

 

でもなあ…この本、好き嫌いが分かれる内容だと思う

推しに依存するあかりは現実逃避にも見えるし、社会不適合者だし…でも人っていくら立派な人でもペット、SNS、グルメ、家族、趣味…形は違えど何かに依存する生き物だからあかりの生き方を否定する事はできない…特に私は…

 

あと、推しに接する時だけは生きている実感が湧くあかりは村田沙耶香さんの「コンビニ人間」の主人公っぽいと思った

 

「推し、燃ゆ」「コンビニ人間」どちらも「普通に生きるの向いてないな」と思った事がある人にはぶっ刺さる本です

 

しかし、宇佐見りんさんの表現力ってすごいね

 

爪が伸びる、抜いても抜いても生えるムダ毛に対してあかりが嫌気がさす場面があるんだけど、その何気ない表現が秀逸

生きている自分の身体が重荷だし、現実を生きれていないのに身体は無駄に細胞を入れ替えて生きようとしている…そんな惨めさを感じさせる良い表現だ

 

これは読んで良かった…この作者さんの次作にも期待して待ってる 

 

 

ちなみにこの本の対極にあるのは「腐女子のつづ井さん」

推しを活力にして全力で生きてる、全オタクの聖書

ellery0y.hatenablog.com


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【星新一 訳】「竹取物語」【感想】

いわゆるかぐや姫だけどちゃんと原作を読んだことがないので、大好きな作家、星新一による「竹取物語」を読んでみました

といっても、かぐや姫のあらすじなんてほとんどの方が知ってる(知らないの私くらい)と思うので、ざっくりと記録しておきます

 

★あらすじ

竹取りじいさんのミヤツコが光る竹を見つけたらそこには小さく可愛らしい娘がいた

子供がいなかったミヤツコは妻のおばあさんと一緒に育て上げた

年頃になり美しく成長した娘は神主に「かぐや姫」と名付けられる

 

そして、美しい娘がいる事を聞きつけた男性達がかぐや姫に求婚をするのだが、かぐや姫はそれをたいそう嫌がり男達に無理難題を与える

 

「み仏の石の鉢」

「蓬莱の玉の枝」

「火鼠の皮衣」

「龍の首の玉」

「つばめの子安貝

 

この「そんなもんねーよ」と言いたくなるほどぶっとんだ品を手に入れるために男達は四苦八苦しながら挑む

 

男達の運命は?かぐや姫はどうして求婚を拒むのか?

物語の最後に待っているものとは…?

 

 

 

★感想

かぐや姫は月の人だから人間とは結婚できず、いつか育ての両親と別れるときが来る…切ない話なのに星新一が訳しただけあってブラックユーモアあり皮肉あり、なのに「竹取物語」の世界観は一切壊してないので安定感がありつつ新鮮な気持ちで読める1冊

 

原文も読めるので日本語の勉強にもなるし、一章ごとに星新一の感想や考察が読めるのも良い

また、星新一のSF感のある文章と昔の作品である「竹取物語」がマッチしてるのも凄い、やっぱかぐや姫が月の人という宇宙設定だからかな

 

言葉遊びも面白くて、例えば「つばめの子安貝はなかった」=「かいがない」とか、かぐや姫と男性達との和歌でのやりとりも絶妙にうまいダジャレが含まれている

竹取物語」が誕生した時代の人もこの手のギャグが好きだったんだなあと思いを馳せてしまった

 

 

しかし改めて竹取物語読んでみると、3年もかかってかぐや姫が欲しがる品を探しに行く男性達はアクティブだな

私だったら3年もかかる時点でかぐや姫の事は諦める…めんどくさいから

 

ミカドが登場してから感動のフィナーレへ…って感じの展開になるけど

竹取物語のハイライトはけして手に入らない物を知恵を巡らし手に入れようとしたり、時にはかぐや姫を騙そうとする男性達の空回りっぷりだと思う

 

5人の男性達の根性を感じる、そしてそれを一蹴する星新一のツッコミが笑える新鮮な名作

 

↓私の本屋的なもの、今まで読んだ本を随時更新していきます。

ちなみに、私の好きなお菓子とゲームもありますがそこはお気になさらず

room.rakuten.co.jp

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【和菓子の甘さ、人生のほろ苦さ】「和菓子のアンソロジー」坂木司編

「和菓子のアン」の著者の坂木司さんがいろんな作家さんにリクエストした和菓子がテーマのアンソロジー

 

個性豊かな作家さんによる甘いミステリー、甘いコメディ、甘いコメディ、甘い怪談…色んなジャンルのお話がぎゅっと1冊に詰まっているアンソロジー

 

甘いもの好きの私としてはヨダレの止まらない一冊だった

この本は10篇からなるアンソロジーとなっており、1話目は坂木司さんの「和菓子のアン」のスピンオフ的な描き下ろしが収録されています

 

私が特に好きな作品をピックアップして簡単なあらすじと感想を記録していきたいと思います

 

「空の春告げ鳥」坂木司

「和菓子のアン」スピンオフ

正月にデパートの「駅弁大会」という駅弁の催し物会場に行くことになったアンちゃん、なにげなく覗いた和菓子屋さんで和菓子の知識皆無の店員さんに文句をつける一人の男性客がいた

「いつまでこんな飴細工の鳥を置いておくつもりなんだ」と男性は謎の言葉を吐き捨て去っていったのだが、アンちゃんはもやもやとする…

飴細工の鳥」ってどういう意味?バイト先の和菓子屋の仲間達に事の顛末を語るアンちゃんだがこの謎は解けるのか?

 

★感想

こちらは「和菓子のアン」で読んだような和菓子の専門用語を使ったミステリー要素はもちろん、ただクレームをつけているように見える男性の和菓子への熱い思いが伝わる話だった

飴細工の種類についても勉強になったし、なにより相変わらず立花さんが乙女で可愛いくて、旧正月のイベントで中国グルメを食べるアンちゃんの食レポが最高だった

とにかく小籠包を食べたい…

 

「トマどら」日明恩

一見冷徹に見える財務捜査官の宇佐見だが、実は甘い物が大好き

同僚に苦い目で見られがちな彼は今日も行きつけの和菓子屋へ行く、しかしそこのおかみさんに娘の里香が悪い男に騙されているので解決してほしいという話をもちかけられる

いや…刑事といってま財務捜査官なのだから捜査はちょっと…と思いながらも美味しいどら焼きに惑わされてズルズルと…

 

★感想

どら焼き美味しそう…っていうのは置いといて

こちらは、きちんとしたミステリーとなっていて謎解き要素はないけれど楽しく読めた

里香の姉の文子が善人すぎてミステリーとしての面白さはもちろん、ヒューマンドラマとしての感動も味わえる良いお話

 

 

「チチとクズの国」牧野修

借金を抱え人生に疲れた主人公「ぼく」は自殺を考えた

しかしそんなぼくの前に死んだはずの父親が幽霊となって現れる

腰を抜かすほど驚くぼくだが、父親は言う「甘いもん食いてえ」

 

★感想

これは本当に面白かった

主人公のお父さんがとにかくガバガバテキトー野郎すぎるうえに、寒いギャグを飛ばしまくるんだけど、人生に疲れ自殺がテーマのこの話が暗くならずに済んでいるのがなんともバランスが良くて読みやすい  

 

生前に好き勝手やって亡くなったお父さんだけど、死してなお息子を想う気持ちが伝わり暖かい気持ちになるし「生きたモン勝ち」そんな言葉が脳裏をよぎる話だった

ただし、息子の救い方はかなりギャグ要素満載…

 

「糖質な彼女」木地雅映子

アイドルのりりちゃん大好きな引きこもりのヒロくん

母親に連れられた精神科にて若い医師に煽られてキレて診察室を飛び出した

母親を振り切り病院をうろついているとヒロくんに一人の女の子が話しかけてきた

上生菓子、一緒に作りませんか?」その女の子はりりちゃんだった

 

★感想

これ語りは軽い作品だけど、精神病、精神疾患患者の作業所、果てはSNSが発達してよく聞くようになったいわゆる毒親というものに関して考えさせられる内容だった

 

タイトルからして詳しい方なら分かるかもしれないが「糖質」はいわゆる「統合失調症」をもじったモノ

統合失調症はその症状ゆえに避けられやすいけど、この作品では統合失調症患者の症状があくまで自然体で描かれていて感心した

 

そして最後に煽り医師が良い仕事をしていて精神病という重い題材の作品にも関わらずほっこりとした気持ちで読み終えた

 

「古入道きたりて」恒川光太郎

杉本は釣りをするために長門渓谷にいたのだが、突然の雷雨に見舞われ、一人の老婆が住んでいる古民家に泊まることになった

その夜、杉本は山よりも大きな巨人を見かける

朝、老婆はその巨人は「古入道」だと説明し、美味しいおはぎを食べさせてくれた

 

そんな過去の話を杉本に聞かせてもらった七尾

「んで、どうなったんだ」と話を促す七尾だが「それで終わり、家に帰ると赤紙がきていてな」と不思議な体験話を切り上げた

時は第二次世界大戦、二人は敵兵に追われて岩場の洞窟にいたのだ

 

★感想

この話もかなり重いテーマだけど、第二次世界大戦が終わり40年も立った時に七尾が長門渓谷を訪れるという展開が良かった

戦争の悲惨さはもちろん、死者の想いを継いでいくという、繋げていく事の尊さを思い知る

 

あと、おはぎは秋だけの呼び名で、春は牡丹餅、夏は夜船と言う事を初めて知った

 

★まとめ

タイトルに書いた通り、甘い和菓子にほろ苦い人生が描かれている

「和菓子のアンソロジー」表紙だけ見ると、可愛らしい本のように思えるけど、どの話も和菓子の甘さに対してうまくいかない人生の苦さの対比が特徴的な1冊だった

 

10篇から5話だけピックアップしてあらすじと感想を書いたけど、正直に言うとどの話も面白いし、謎解き度が多めのミステリーが多くて楽しく読めた

ミステリー、日常ミステリー、冒険物、暗号謎解き、コメディ、ヒューマンドラマとこの1冊だけで色んなジャンルの作品を一気に読めるし、どの作家さんも和菓子の味の描写が美味いしで読んで本当に良かった

 

白い丸い和菓子…中にはねっとりとしたあんこが入った松露、みかんが入った牛乳かん、可愛く彩られた上生菓子…全部この本に登場する和菓子だけど、あー…今すぐ食べたいなあ

 

【吉永小百合さんに癒やされ、天海祐希さんのかっこかわいさを見てほしい】「最高の人生の見つけ方」【映画の感想】

ホラーじゃないものをたまには観ようと思って、アマプラを漁ってると出てきた「最高の人生の見つけ方

この映画は元は洋画で、ジャック・ニコルソン(シャイニングの人)とモーガン・フリーマンが演じている作品の日本版リメイクとなっています

↑これ

こちらは数年前に金曜ロードショーかなんかで観た事があるので、日本版も観たいなあと思って視聴しました

 

★あらすじ

癌の余命宣告を受けた専業主婦として生きてきた70代の幸枝さん(吉永小百合さん)と、仕事一辺倒で生きてきた女社長まこさん(天海祐希さん)が出会い二人は友達になる

 

ある日、病院の中庭で二人で談笑していると一人の少女がやってきてタバコを吸おうとする

咎める幸枝さんに反抗する少女だったが、その場で苦しみ倒れてしまう

少女は持っていたバッグを落としたまま医師によって運ばれていった

 

少女の事が気になっていた二人は数日後、少女の病室に訪れるが少女の弟によって「お姉ちゃんは死んだ」と聞かされる

やるせない気持ちで幸枝さんが最後に少女が持っていたバッグを開ける

と、そこにはかわいくデコられた手帳が…

開いてみると「死ぬまでに叶えたい事リスト」と題をうたれ、少女の夢が記されていた

 

スカイダイビングをしたい

大金持ちになる

大きなパフェを食べたい

ももクロのライブに行きたい

大切な人にありがとうと伝えたい

好きな人に告白したい

ウェディングドレスを着たい

宇宙旅行に行きたい

 

少女の夢は未来への希望に溢れていた

 

幸枝さんが一時退院して家に帰るとそこには、だらしなく寝転んで洗い物すらしていない旦那さんがいた

幸恵さんは家事を済ませたあと、まこさんに電話をする

 

「あの子の夢を叶えてあげたいの」

 

二人は少女の夢を叶えるために壮大な旅に出た

 

一人の少女が二人の残された人生に華を添えるような物語

 

 

★感想

洋画版はおじいさんだったけど、こちらは天海祐希さんと吉永小百合さんというビッグな女優が演じていて、映画では女性ならでは…特に専業主婦として夫や子供を支え自分を抑えながら生きてきた幸枝さんの心情が伝わってくる

 

少女の夢を叶えるために旅に出た二人だったけど、旅を通じて過去と向き合い克服するまこさんと、自分の人生の意味を見つけ家族とすれ違っていた心を通わせていく幸枝さんの物語

 

映画の冒頭はロケットを宇宙に打ち上げる所から始まるから「なんじゃこりゃ」と思ったけど、最後まで観てこれは亡くなった二人へのとっておきのサプライズ、最後の夢を叶えるための重要な場面なのだと納得して心がじーんとした

それに、最後の重要な場面を冒頭に持ってくる演出も良かった

 

ただ洋画版と比べる事はしない方が良いと感じる、こちらはこちらで別物として観るのが正解

 

まこさんの最期が少しおざなりではないかと思ったものの、スカイダイビングをしたり、ももクロのライブの舞台にあがり「キャッホー」ってなってる幸枝さんとまこさんは無邪気で可愛いらしいし

もののふとしてサイリウム持ってオタ芸するまこさんの秘書(ムロツヨシさん)が面白くて良い役回りをしています

感動するだけではなく、笑いどころもある良映画!アマプラで観れるのでぜひ!

 

〜【駄文】私の死ぬまでに叶えたい事リスト〜

 

ちなみに、自分が死ぬまでに叶えたい事は何だろうと考えてしまって、まだまだ先の事だと思うけど私もリストを作ってみた

 

モルジブでシャークケージに入りあわよくばホオジロザメを触りたい

バンジージャンプしたい

スカイダイビングしたい

気球に乗りたい

乗馬したい

海外で美味いもの食べたい

クリスマスのプリンスエドワード島に行きたい

子供用ダノンヨーグルト(にんじん&クリームチーズ)をたらふく食べたい

ぶちのめされる覚悟はあるので強い人と麻雀打ちたい

リアル麻雀で天和を和了りたい

最強クラスの心霊スポットに突撃して本当に幽霊はいるのか検証したい

吉本新喜劇に出たい

山に住んで野菜を作り肉を狩り自給自足したい

世界中の可哀想な動物を少しでも救いたい

 

うん……叶えられなさそうだな…

 

ちなみに、死んだ後もやってみたい事はある

 

死後も魂があるのか確かめたい

幽霊になれたら人を驚かして怪談家に語り継がれたい

幽霊になって悪い人間(犯罪者とか)を呪ってやっつけたい

幽霊になってしばらく雀荘に住み着きたい

閻魔大王が色白かどうか確かめたい

あの世で待っているであろう猫2匹とインコとイタズラ好きの祖母と私で鬼を追いかけて遊びたい

虹の橋のたもとにいる可哀想な動物をみんな天国に運ぶ

キリストとブッダがいるのか確かめて、もしいたら天上の神はなぜ罪のない人や動物を助けないのか聞いてみたい

賽の河原の子供を助けたい

小島武夫と麻雀したい

亡くなった海外のロックミュージシャンを集めてフェスしたい

 

うーん…(-_-;)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【あの歌が頭から離れない】不安の種【ホラー映画少しネタバレあり】

ぬかるんだー道をー行こうー〜♪ボロボロの道を行こう〜♪新しいー靴がー汚れたー♪だからー私はー歩くのがーーー嫌いー〜♪

 

これ観たあと、子どもたちが歌うこの気味の悪い歌が頭から離れない

この前、観たばかりなのでざっくばらんにあらすじと感想を記録していこうと思うけど、私は登場人物の名前を覚えるのが苦手なのであだ名をつけて記録していきます

 

…けどこの映画、私はもうアウト!わけが分からないからただ、思った事だけ脈絡なく書きなぐります

 

★あらすじ

まず、あらすじをどう書けばいいのか…とにかくいきなり道路を移動する大量の目玉の場面から始まる

 

舞台は冨沼市(ふぬまし)

 

体が真っ二つに割れた男(須賀健太)が話の冒頭に登場するのだが、真っ二つ男(須賀健太)の生前の話と、真っ二つ男を発見しトラウマになり転職した男、そしてとある家族(父、母、兄、妹の4人家族)が奇妙な出来事に遭遇し追い詰められていく

この三者の様子を交互に観させられる構成

 

後にこの三者は繋がっていく 

 

真っ二つ男(須賀健太)の彼女は情緒不安定、転職男は転職先の陽子という女と出会い恋のようなものに落ちるがこの町のおかしな出来事のせいで引きこもりに、そして4人家族は侵入してきた何者かに殺されてしまい妹だけが生き残ってしまうというストーリー

 

狂った事が次々と起こる中、真っ二つ男(須賀健太)の隣人が急死した

朝、遺体を運んでいる所を眺めて真っ二つ男(須賀健太)だったが隣人の玄関の名札に謎のシール(ムンクの叫びみたいな顔のシール)が貼られていた事に気づく

 

 

一方、転職男は陽子に助けられこの異常な町を出ようとするが、転職男のバイクにもそのムンクシールが…

 

 

★感想

うーん、わからん

 

というのも、最終的に真っ二つ男(須賀健太)はなぜか生きてて映画の最後の方では家庭を持ち一児の父になってるのよ…妻は陽子

しかもこの陽子は4人家族の生き残った妹

 

んで、体が真っ二つになって死んだのは転職男

時系列がめちゃくちゃだし、真っ二つになってる男も違うしで何が何だか分からない

 

最初は陽子が不思議な力でも持ってて本来死ぬはずだった真っ二つ男(須賀健太)を生存させたいから、転職男に死をなすりつけるためにタイムループでもさせてんのかと思ったけど…この解釈は絶対に違うしなあ…

 

まあこのあとも、生き残った方の真っ二つ男(須賀健太)は、陽子の家族を殺したやつ?に襲われたり色々と散々な目に合うし、結末には少し驚きの展開が待っている

 

…けど、鑑賞後には疑問だけが残る

時系列や内容云々よりも人に不快感を与えるためだけに作られた映画なのではないかと穿った考えが浮かんでしまった

 

ちなみに、富沼市が杏京市と合併して「富杏市」(ふあんし→不安市)になる場面はひねりが効いてて笑えた「あー、だから富沼市を抜けても転職男は助からなかったんだなー」と、すとんと腑に落ちてスッキリしてしまった

 

まあ、こんな感じでたくさん伏線を張ってるのに、ほぼ回収されず、変な所だけ笑わせてくるひたすら不気味で変な映画だった

 

これ、漫画の方を読まないと真相は分からないだろうなあ…おちょなんさんって結局なんだったんだ…ムンクシールと顔も似てるし関連性があるのかなあ

 

 

 

 

 

 

 

 

【怪談シリーズ】「営繕かるかや怪異譚」小野不由美【優しい世界、短い感想】

こんなに優しい怪談本は読んだことがない

久しぶりの小野不由美作品、良いものを読ませてもらった

↑「営繕かるかや怪異譚」の一作目です

 

★あらすじ

この作品は、6話からなる短編となっている

舞台は古民家で、6人の登場人物が様々な怪異に見舞われる

 

「奥庭にて」

何度閉めても開いている襖…そこから女が出てきて這いずり回る恐怖に悩まされる女性

 

「屋根裏に」

屋根裏部屋の足音に不審感を感じる家族、その足音の主とその秘密とは…

 

「雨の鈴」

雨の日になると黒い和服の女が鈴の音とともにやってくる…しかしその女が玄関に入って来ると死人が出る…その女に狙われてしまった女性 

打開策はあるのか?

 

「異形の人」

家のあちこちにガリガリの老人が現れて、悩まされる女子高生

老人の正体は?この家で起こった陰惨な出来事とは?

 

「塩満ちの井戸」

庭にある塞がれた井戸を改造して使えるようにした旦那さん、庭が使いやすくなった事で奥さんも満足していたのだが、その井戸が開放されてからいくら庭に花を植えても枯れるようになってしまったのだ

 

「檻の外」 

車が何度も故障した事から始まり、やがてガレージに住み着くなにかに気づきその何者かに脅かされる母子の話

 

 

そんな悩める彼らの前に現れる営繕屋の青年

 

彼は、この世で迷い彷徨い歩く幽霊達を強制的に祓うことはせずに、古民家を修繕し幽霊を迷わせたり、閉じ込めたりするような工事をして幽霊を封じ込める

 

イデアで幽霊と勝負をする新しい怪談

 

 

★感想

とても優しい世界

 

普通の怪談本となると幽霊と戦ったり、強制的にお祓いしたりするのが定石だけど、この作品は新鮮

 

「そんな方法で幽霊を封じ込めるのか!」と意表を突くような改装をしたり、なぜ怪異が起こっているのかという謎にも迫る驚き要素はもちろん

この作品に登場する幽霊はどれも生きてる人間の都合や勝手で亡くなり、未練を残した者ばかり

そんな彼らを無理に祓ったりせずに、彼らが安心する場所だけを与えるためにうまく工事で改装して共存しようという営繕屋の青年の優しさを感じる作品だった

 

迷わせたり、閉じ込めたりが幽霊にとって幸せか、強制的に成仏させるかどちらが幸せかは分からないけれど、よほど凶悪な悪霊ではない限り彼らが満足して、自らの意思であの世へ旅立つ方が良いのではないかと私は思うので、修繕して彼らの安心できる、満足できる場所が与えられるならそれに越したことはない

 

幽霊達が一方的に悪いわけではない、存在したって良いのではないか、著者の亡くなった者への敬意を感じる一冊だった

 

あと、やたら幽霊に詳しい営繕屋の青年が何者か知りたいから続編も読みたいな

 

 

 

 

 

 

【侘しさを感じる】「女のいない男たち」村上春樹【長めの感想】

ついこの前読み終わった村上春樹の「女のいない男たち」6話からなる短編集です

↓私が読んだのは単行本

村上春樹の短編集は比較的読みやすいけど、やはり私の中途半端な読解力では大した解釈はできないので、あらすじと読んでる時に感じた想いをさくっと記録しておこうと思う

 

「ドライブ・マイ・カー」

女優の妻に先立たれた孤独な舞台俳優「家福」が専属の運転手の女の子に自らの胸中を語る話

 

家福の妻は子供を流産してから何度も不倫を重ねていた、その後、癌になり亡くなってしまうのだが、不倫した妻の気持ちを理解したいがために家福は妻の不倫相手と友人関係になる、そこで家福が導き出した答えは…

 

★感想

妻の不倫相手の男と友人関係になるのがなかなか理解しがたい…が、そこら辺が村上春樹の作風だと思うのであえてツッコミは入れずに…

 

家福の奥さんは亡くなった子供の喪失感を埋めるために、不倫をしていたのだろうか…どうやら本気の不倫でもなかったみたいだし

家福ともう一度やり直す、子供を新たに作るという事も苦痛だったのかもしれない(また失うかもしれないしね…)

 

いずれにしろ最後まで家福には奥さんの気持ちが分からなかった

 

でも胸中を語る家福の葛藤と、奥さんの思いを運転手の女の子が心の奥深くで理解してる感じが良かった

 

ちなみに「ドライブ・マイ・カー」は今年の8月に映画化しています

 

「イエスタデイ」

ビートルズの「イエスタデイ」を関西弁に翻訳して歌う関東人の木樽と、木樽の彼女のえりかと、主人公「僕」をめぐる話

木樽は彼女のえりかを、主人公に「俺の代わりにお前がえりかと付き合ってみいひんか」と持ちかけられる

渋る主人公だったがあまりの木樽の押しの強さに負け三人で会うことになる

 

★感想

木樽の気持ちがわかる^^;

木樽は浪人生でえりかは優秀な大学生

ちゃらんぽらんで不器用な自分と付き合い続けるよりも、きちんとした主人公に自分の彼女を任せたいという気持ちだな…たぶん

 

しかし、えりかはそんな木樽を曲がりなりにも愛していた、どこまでもすれ違う二人の気持ちが歯がゆかった

 

でも破天荒な木樽が自分の道を突き進んだと思える数年後のエピソードが良い、すっきりした読後感だった

 

「独立器官」

美容外科医の渡会は、女性と体だけの軽い付き合いしかしたことがなかったのだが、たまたま出会った既婚者の女性に本気の恋をしてしまう

懊悩する渡会だったが、やがて餓死というもっとも辛い自殺を選んでしまうという話

 

★感想

極端なんだよ、渡会…今までまともに人を好きになったことがないから、いざ本当に好きな相手に出会ってしまうと必要以上にのめり込んでしまう

あれだ、遊んでこなかった真面目な人が歳を取った時に下手にギャンブルなどの遊びを覚えてハマってしまう現象と一緒だ

 

ただ、けして手に入らない相手を本気で好きになってしまった

これまで手に入らないものなどなかった渡会には、死を選ぶ方が楽だと思えるほどに辛い事だったんだなと感じた

 

でも、私には渡会は自己中なエゴイストにしか思えなかった…

 

 

シェエラザード

主人公の「僕」と体だけの関係である彼女はいつも先一夜物語のシェエラザードのように不思議で面白い話を聞かせてくれる

 

そんな彼女が、高校生時代に好きだった男子の事について語ってくれた

それは、彼の家に忍び込み一つずつ物を盗むというぶっ飛んだ経験談だった

 

★感想

いやー…村上春樹の発想、ぶっ飛んでんなあとしか言えない作品

 

思春期特有の抑制できない恋心が歪んだ形で表れていて面白い話だった

ある出来事が起きて彼女は彼の家に忍び込む事はできなくなるわけだけど、それをきっかけに彼の事は頭から離れていく 

 

なんか純情だった乙女から、割り切れる大人の女性になっていく段階が描かれているような気がして、なぜか切なくなった

 

「木野」

伯母の店をもらい、バーを経営する事になった木野だったが、ある日カタギではない客と諍いが起きる

ピンチの木野だったが、カミタという強面の客に救われる

 

その後、木野はある女性と関係を持つのだが、カミタから「しばらく身を隠せ」と忠告を受ける

木野は危険な目に会いながらも数奇な運命を辿る

 

★感想

うーん、これは解釈が難しい 

話の随所に変な蛇が現れたり、通い猫が消えたりと伏線が貼られてるんだけど、カミタがそれだったとか?守り神的ななにかか…?

ちょっと分からなかった、すみません

 

「女のいない男たち」

表題作。真夜中に電話のベルが鳴る…主人公の「僕」がその電話を取ってみると数十年も前に付き合っていた彼女エムの夫だった

 

エムの夫は彼女が自殺した事を僕に告げる

 

僕はエムがなぜ自殺をしたのか、そしてエムの夫はなぜ僕に連絡してきたのかという、疑問と共にエムとの出会いを振り返る

 

★感想

この話が一番好き

淡々とした語り口調だし、エムとのエピソードにはユーモアさえ感じるんだけどエムを亡くした虚無感が伝わってくる

 

何十年もたって「僕」も他の女性と結婚し、エムを忘れた気持ちでいたけどエムの好きな音楽や、愛された記憶が「僕」の心に蘇る

短い付き合いだとしても「僕」の人格の一部はエムによって多少なりとも形成されているのだと感じる

 

人との出会いって完全に切れたと思っても、付き合っていた時の気持ちや想い、癖は心の隅っこに残るもんなんだなと感じた話だった

 

●まとめ

この作品はタイトルの通り「女のいない男たち」がテーマ

 

様々な形だけど女性と出会い、奇妙な理由で別れたり去られたりした男性たちの微妙かつ複雑な寂しさがよく描かれている

 

今まで読んだ村上春樹作品の中でも、苦味のある作品だった